初診 H5.11.9
病歴(母親の記録参照) H4.6.13バイク転倒により脳挫傷受傷、瞳孔不同、除脳硬直、昏睡状態であったが、2ヶ月半位から意識レベルが徐々に回復した。 3ヶ月頃から車椅子、歩行可能となり約一年で退院した。 自宅では箸で豆を掴む練習などしていたが、書字などの高次機能は字が ふるえうまくできない状態で、本人も諦めているようであった。
初診時所見 右不全麻痺、右外斜視で、時々複視となる。右顔面神経麻痺(+)、嚥下、咀嚼正常、軽度の言語障害が見られる。右半身にシビレがあるが、温痛覚、触覚などには明らかな左右差は認められない。右上下肢の深部 反射は亢進し、膝クローヌス(+)、バビンスキーは(-)であった。
治療経過 内服はケタスのみを処方し、週1回の頭皮針治療を開始した。 字がうまく書けないとの訴えがあり、ワープロを勧めたが、あまりやる 気にならないようであった。12月17日に、「92歳の老人が、気力で練習し、書字機能が著明に改善した。」ことを説明し、頑張って練習するよう指示した。1月より練習を開始したところ、11回目の治療で(6.1.28)急速に書字機能に改善が見られ、これに伴い気力も回復し、他の運動機能にも改善が見られた。
考察 頭皮針により書字機能が回復しうることは、92歳の老人の例で明らかになったが、その例は多発性脳梗塞で運動障害も軽度であった。本例は脳挫傷の昏睡から奇蹟的に回復した症例で、前例とは対照的に脳の障害も強く書字機能が回復するか否か疑問であった。結果は予想以上で、かつ本人の生活意欲も高まり、治療前に比べ全ての面で良い方向に向かっている。本例を通じて、高度の障害を受けた患者でも頭皮針と本人の努力により、書字機能をはじめ高次機能の改善が得られることが示された。 |